足元を見る
靴は大事だと人は言う。一流ホテルやレストランではカードと同じくらい足元を見られる。銀座のクラブなんかでは、靴でお代が変わるらしい。
足元を見るとは、人の弱みに付け込むという意味の諺であるが、現代でも文字通り、足元の靴を見て人となりを判断することがある。
逮捕されて以来、内偵のトラウマもあってか、つい街で通りすがりの人や電車の中で目の前に座っている人の足元まで視線が行くのが私は習慣になってしまった。
サラリーマンらしきスーツを着た男性なのに、斜めがけのカジュアルな鞄を身につけている。そこで、足元を見てみたら、固くて重い走るのには適さない革靴だったら、なぜか安心してしまう自分が居る。警察たる者、いつ何時でも走れる靴を履いている筈だと。
こんな事を書いたら、私みたいな奴がいることを想定して、その先を読んで、アルマーニのスーツに、英国王室御用の革靴達という映画に出てきそうな紳士の身なりで内偵する警察が現れたりして。
逮捕された時に言われた事の中で、面白いものがあった。
「君は曜日を問わずOLの格好をしていたので、どれが会社か分からなかった」
確かに、毎日ヒールを履いているからだと妙に納得した。洋服はまだしも、靴が肝心なのかもしれない。膝から上が同じでも、ヒールとスニーカーの違いは大きい。
女性の場合、スカートに、ストッキングに、ヒールの靴という格好だと、入れない場所がほとんどない。ヒールさえ履いていれば、オフィスも一流ホテルのロビーもレストランも問題ない。都会で生きていた自分の足元が、いつの間にか、無難になっていることに気づかされた。
ちなみに男性の場合は、スカートの時点できっと職務質問対象となる。笑
勾留中は、生まれて初めてのサンダルを履かされ、地検に行く時もなんとそのまま護送車に乗る。足元が全員同じなのだ。そこには油性ペンで書かれた3桁の番号がある。
警察は、足元を見て判別していた。